貝の詩集

アワビ

びらびらした外套で岩にはりつき
硬い石灰質の殻を作りつづけていた
五年間も六年間も
ただそのために海藻を食い
生き続けてきた

海底で静かにパントマイムは演じられていた
それは真珠層にかかる虹色の夢だったのか?

ヒラザクラ

さみしいですね この風景は
波が岸を洗うのみですね
それゆえ身は薄くなり――
さみしいですね この風景は

松に風。

ルリガイ

深い海ではルリ色がとても濃かったので
海産かたつむりはきれいに染まってしまった
そのうえ海はおだやかなので
殻の巻きかたまでのんびりとしてしまい
こうしてルリガイができたというわけです

アコヤガイ

こんなところで真珠は育つ 
乳色の光の満ちている
二枚の容器(いれもの)
外の色は黄や緑や灰や
何色でもかまわない
ただその中の乳色の光
乳色の光のしまもよう
その中にすこやかにみごもるもの

ツメタガイ

夜な夜な
食った貝の霊にとりつかれ
恐怖と羞恥に
炎のように発熱する俺を
言うのか 冷血エゴイャないストと
好きで食ってるわけじゃない
だが死ぬ術も知らぬ俺は
ただ食って生きねばならぬ
自分の肉を食うことよりも
他人の肉を食うことは
よほどつらい
見ろ 俺の身体を
脂ぎってやわらかい
ぶよぶよの俺の身体を
他人を包みこむ習慣のために
ぶざまに拡張した外套膜を

さくら貝

砂の上に
さくら貝が
点々と
散らばっています

黄だいだいや
白っぽいピンクや
だいだいや
うす赤の
マニキュアをつけた
さくら貝です

どれもこれもみんなからなのに
一片だって
欠けてはいない
にじのような
さくら貝です

多くなれば
多くなるほど
よけいさびしい
きちんと坐った
ものがなしい
美しさの
さくら貝です

さくら貝の
からだには
小さな穴が
あいていて
それが
なぜ死んだのかを
うったえます

わたしのからだの
小さな穴は
ツメタガイが
わたしの肉を
食べた
あとなのよ

砂の上に
さくら貝が
点々と
散らばっています

それは
さくら貝が
たくさん
たくさん
死んだ
からなのです

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